農協合併への私見

日本の農業を語る上で、農業協同組合(農協)の存在は不可欠です。
農協というと「JA」を真っ先に思い浮かべる方が多いと思いますが、JA(総合農協)の他にも様々な農協が存在することをご存じでしょうか。JAと呼ばれる農協は総合農協で、いわゆる農協の母体となる営農・販売事業に加えて、信用事業(銀行業)や共済事業(保険業)等、幅広い事業を展開しています。
これに対して、千葉県の丸朝園芸農業協同組合や大分県椎茸農業協同組合のような専門農協があります。これらはJAグループとは成り立ちが異なり別組織ですが、団体自体がJAと深く関わっていたり、組合員が双方に出資している可能性がある以上、完全に独立した別団体とはいえませんが、主に営農・販売事業のためだけの農協であることから、総合農協に対して専門農協と言われています。農協がすべてJA(=総合農協)でないことをご理解いただければ幸いです。

近年、日本全国でJAの合併が進められており、その目指すところは「1県1JA」です。
この広域合併には、主に以下の二つの目的があります。

  1. 止むを得ない合併(危機回避型): 不良債権を抱え、再生不能に陥った、あるいは陥る可能性のあるJAとその地域の生産者を守るためです。合併は、対等合併、解散・新設、吸収合併など様々な形で行われます。ただし、採算の良いJAにとってメリットがなければ合併協議から離脱することもあり、経営が悪化したからといって、必ずしも好調なJAと合併できるわけではありません。
    • 事例: 令和に入ってからの北海道での広域合併協議では、JAみついし以外の3JAの不良債権率が想定を大幅に超えていたため、JAみついしがメリットなしと判断し離脱。協議が終了した経緯があります。
  2. 戦略的な合併(改革対抗型): これは、政府が進めてきた農協改革への対抗措置としての意味合いが強いと考えられます。農協改革は、中央会制度の廃止、公認会計士監査の義務付け、全農・中金・全共連の株式会社化、信用事業の代理店化を促し、現在の総合農協としての役割を解体し、購買・販売に特化した専門農協化を進めるというものです。これは、JAから一定の距離を置く農業系研究者などに多い考え方とも言えます。

達成済みJA

現在までに「1県1JA」を達成しているのは、奈良県(1999年)、香川県(2000年)、沖縄県(2002年)、島根県(2015年)、山口県(2019年)、宮崎県(2024年)、そして和歌山県(2025年)です。西日本での取り組みが先行していますが、これはまだ体力があるうちに合併を完了させたいという判断が働いているためだと推測されます。

主な合併形態

合併形態は、大きく分けて以下の三つのタイプに分類されます。

  1. 即時機構改革型: 合併と同時に体制を一新する。
  2. 時限的な地区本部存続型: 旧JAを地区本部(地域本部)として3年間存続させ、その後機構改革を行う。
  3. 半恒久的な地区本部存置型: 地区本部制を継続して残す。

島根県は3つ目のタイプで、形式上は1県1JAですが、旧JA単位での地区本部制が2025年2月現在も続いています。合併直後の急激な変化を避け、スムーズな移行を図るために地区本部制を残すやり方は、近年全国で増加しており、有用な手法といえます。例えば、2016年(平成28年)の福島県の広域合併や、2019年(令和元年)のJA新みやぎ新設の際にも採用されました。宮崎県や和歌山県でも同様に地区本部制が採用されています。

複数の県で広域合併が進められていますが、中には単独のJAとして存続する組織も存在します。

県名広域合併JA単協として残るJA
岡山県JA晴れの国岡山JA岡山
広島県JAひろしまJA広島市、JA尾道市、JA福山市、JA広島ゆたか
福井県JA福井県JA越前たけふ
高知県JA高知県JA高知市、JA土佐くろしお、JA馬路村*
徳島県JA徳島県JA徳島市、JA東とくしま、JA里浦

*JA馬路村は令和2年に信用事業をJA高知信連に譲渡

また、熊本県や秋田県では、1県1JA構想が進められていましたが、一部のJAが協議から離脱し、1県1JAへの道のりが遠のく事例も見られます。農業系研究者には戦略的に見える構想であっても、当事者であるJAにとってメリットが感じられなければ参加しないのは当然であり、単独でも生き残れると判断した強いJAの存在が背景にあります。

1県1JA化によるスケールメリットは多岐にわたります。

  • コスト削減: 物流拠点の集約による運送コストの削減。
  • 業務効率化: 業務の統合による人員削減と、新たな事業や増員部署への配置転換。
  • 経営基盤の安定: 不良債権を抱えるJAの負債を同一資産とすることで不良債権の割合を下げ、経営基盤を安定化。
  • 人材確保: 経営基盤の安定による優秀な人材の確保。
  • 地域生産者の保護: JA運営の継続による地域農業の維持。

一方で、負の側面も存在します。

  • 地域責任感の希薄化: 組織のトップが一元化されることで、下部組織となった旧JA地域の責任感が薄れ、地域衰退を加速させるおそれがある。
  • セーフティネットの喪失: 1県1JAがさらに赤字に陥った場合、同一県内に合併先となるJAが存在しないため、合併という手段が使えなくなる。最終的には国や地方行政の支援が求められることになるが、人口・生産者減少が進む中で、その実効性は未知数です。

1県1JA構想はJA全中が主導する活動の一部ですが、すべてのJAがこれに賛同しているわけではなく、また合併が必ずしも最良の結果を招くわけでもありません。

合併に際しては、地域の争いの歴史や、苦渋の決断を下した当時のJA役職員の思いを忘れてはなりません。合併によるメリットはたしかに大きいものの、政府の改革や全国大会での決定にただまい進するのではなく、「地域農業を守る」という農協の原点に立ち返り、本当に広域合併が最善の策であるかを再考すべきではないでしょうか。

単独での存続、姉妹JAとの連携、あるいはJA以外の民間企業との協業など、地域の特性に応じた様々な選択肢を検討し、地域の生産者を守るという使命を果たす農協であり続けることを願います。

合併により販売力強化やコストカットを実現し、農業活動に必要な資金を得る道もあれば、単独で踏ん張る道もあります。どちらが最善の策かは地域の特性によって異なりますが、もし「地域の農業は地域で守る」という考えがあるならば、先祖伝来の教えや従来の技術、資材に加え、バイオスティミュラント資材などの新たな分野にも目を向けてみてはいかがでしょうか。


植物の持つ力を引き出し、非物質的なストレスを回避するバイオスティミュラント資材は、今後ますます重要な役割を果たすと期待されます。これまで繋がりのない団体や消費者が当サイトを通じてつながり、日本農業が賑わうことの一助になれば幸いです。

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